眼鏡レンズに埋め込める、厚さ150nmの超薄型ミラー
メタオプティクスミラー(TDK)

概要
「メタオプティクスミラー」とは、ナノサイズの反射体を平面上に並べて光の反射を制御し、スマートグラスの眼鏡レンズに埋め込める、厚さ150nmの超薄型ミラーだ。TDK株式会社が開発し、2026年10月2日に、このミラーを用いたスマートグラス向け網膜直接描画(DRP:Direct Retinal Projection)ディスプレイの実証に世界で初めて成功したと発表した。「CEATEC 2026」において最優秀賞にあたる「CEATEC AWARD 2026 経済産業大臣賞」を受賞している。
レーザー光を網膜へ直接届けるDRP方式は、視力に関わらずクリアな像を視認できる一方、従来は眼前に突き出る曲面ミラーが必要で、外観が不自然になる構造的制約を抱えていた。本技術は曲面ミラーの機能を150nm・透過率80%のフラットな透明薄膜へ集約。通常の眼鏡レンズと同等の透明さを備える。網膜に直接描画する方式のため、対面する人に映像が漏れる心配もない。現在はモノカラー対応で、数年以内にフルカラー対応の実証と量産化を目指している。




なにがすごいのか?
厚さ150nmで曲面ミラーを代替し、外側にパーツが飛び出さず、眼鏡レンズの内部に埋め込める極薄・超軽量設計
透過率80%の透明性と「外から見えないプライバシー保護」:視界を遮らない自然な透明度を保ちつつ、光を網膜だけに届けるため対面者への映像漏れ(アイグロー)がゼロ
半導体と同等のウェハプロセスで作れるため、複雑な光学部品を組み合わせる導波路方式より、低コストでの量産化を目指せる
なぜ生まれたのか?
スマートグラスはスマートフォンを代替する次世代モビリティ・情報端末として期待され、2030年には世界出荷8,300万台規模に達すると予測されている。しかし、現状のディスプレイ搭載モデルの普及率は約5%にとどまる。最大の障壁は、高価格と「日常で身につけるには不自然な外観」にあった。
主流の光学導波路(ウェーブガイド)方式は、レンズ表面に虹模様の干渉縞が生じるほか、対面者から表示画面が見えてしまうプライバシーの課題や、多層光学素子の貼り合わせに伴う製造コスト高がつきまとっていた。一方、網膜直接描画(DRP)方式は映像漏れがなく鮮明な像を結べるが、光を集光させるための「曲面コンビナ(ミラー)」が眼前にせり出し、ゴーグルのような異物感を生んでいた。
この課題を打破するため、TDKは2022年7月に「眼の前の物理ミラーを消す」プロジェクトを始動。HDD用薄膜磁気ヘッドの製造拠点で培ったナノ加工技術を結集し、網膜投影のパイオニアである株式会社QDレーザとの協業を通じて、平面でありながら光を曲面反射させるメタオプティクスの開発に挑んだ。
なぜできるのか?
ナノ構造で光を意図した方向へ曲げる「負の反射角」制御
メタオプティクスは、ナノサイズの微細な構造を平面上に配置して、光の反射や屈折、集光を自在に制御する技術だ。透明な基板の表面に、1万分の1ミリという極小の構造体を特定のパターンで敷き詰め、光の進む方向を操る。従来の光学部品は、ガラスやプラスチックの厚みや曲面で光の向きを決めていた。メタオプティクスミラーは、ナノ構造によって光を通常の反射とは異なる方向に導く「負の反射角」を実現し、曲面ミラーの機能を、薄く平らなレンズの上で再現する。
ミラーの位置ごとに反射角を変え、さまざまな角度のレーザー光を網膜へ導く
平面上に並べた独自のナノサイズ反射体は、ミラーの位置ごとに光の反射角を変える構造をとる。これにより、さまざまな角度で入射するレーザー光を、網膜直接描画に必要な反射角で反射できる。曲面ミラーが形で担っていた役割を、平面上の配置パターンで置き換える仕組みだ。厚さは可視光の波長より薄い150nmで、光干渉による虹模様の影響を減らす。映像描画に必要な特定波長のレーザー光だけを選択的に網膜へ導き、それ以外の外光は80%以上透過させるため、通常の眼鏡レンズ遜色のないクリアな視界を備える。
TDKの薄膜プロセス技術と、半導体と同じウェハプロセス
ミラーは、TDKの薄膜プロセス技術を活用したオリジナルのメタオプティクス光学素子だ。製造には、半導体製造で使われる加工技術(ウェハプロセス)を使える。高価な導波路ディスプレイや、複雑な光学部品の組み立てが要らず、モジュール構造を大幅に簡素化できる。光源側では、TDKが確立した世界最小クラスの超小型フルカラーレーザーモジュール(FCLM)と、4Kの映像解像度を可能にする可視光フルカラーレーザー制御デバイスが、網膜直接描画のキーデバイスとなる。TDKはQDレーザと事業協力契約を結び、QDレーザの網膜投影技術・特許群と、自社のFCLMやメタオプティクスミラーなどを融合して、次世代のRGB光源モジュールと光学エンジンの開発を進めている。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。 詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。 Top Image : © TDK 株式会社




