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2023.04.04

コラム | 地財探訪

伝統織物「博多織」を知財情報から紐解いてみた【地財探訪 No.15】

地財探訪 バナー no15

本コラムは、地域の財産である「地財」を探訪するものである。全国の「伝統的工芸品(*)」の歴史を紐解きながら、関連する知財権情報と合わせて紹介していく。(知財権:特に、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)

(*) 伝統的工芸品:経済産業大臣によって指定された計237品目の工芸品(2022年3月18日現在)

例えば特許情報には、明治時代における職人の拘りや後世へ伝えたい想いなどが隠れているかもしれない。本コラムを通じ、百年以上の歴史がある「地財」である伝統的工芸品の新たな魅力を発掘していきたい。現代に生きる者として、先人が遺した知的財産を更に後世へと伝えていく姿勢が大事と考えるためである。

地財探訪 第15弾 は福岡県「博多織(はかたおり)」

歴史を振り返りながら、職人技術について知財文献から拝見していく。
(過去のコラム:第1弾 青森県「津軽塗」第2弾 沖縄県「琉球びんがた」第3弾 秋田県「大館曲げわっぱ」第4弾 岩手県「南部鉄器」第5弾 福井県「越前和紙」第6弾 愛知県「常滑焼」第7弾 宮城県「雄勝硯」第8弾 和歌山県「紀州へら竿」第9弾 東京都「江戸切子」第10弾 兵庫県「吹き戻し」第11弾 佐賀県「伊万里・有田焼」第12弾 京都府「京くみひも」第13弾 宮崎県「都城大弓」第14弾 香川県「丸亀うちわ」

01 博多織の概要

「博多織」は、福岡県・佐賀県の一部地域に伝わる絹織物。1241年に博多商人・満田弥三右衛門が中国(宋)から持ち帰った技法がルーツとされる。慶長5年(1600年)福岡藩初代藩主:黒田長政が幕府への献上品として博多織を贈り始めたことなどから、地域の代表的な特産品として根付いていった。一度締めたら緩みにくく、締める時に鳴る「キュッキュッ」という絹鳴り音が特徴的。昭和51年に伝統的工芸品として指定。平成19年に地域団体商標「博多織」登録。

1673920753254-locO0f8N2E 商標登録第5031531号 博多織(はかたおり)|特許庁 HP より引用

商標登録第5031531号 博多織(はかたおり)|特許庁 HP 

博多織は、細い経糸(たていと)に対して太い緯糸(よこいと)を打ち込むことで様々な柄を織り出している。太い縞が細い縞を挟む「親子縞」、細い縞が太い縞を挟む「孝行縞」、そして仏具である独鈷・華皿をモチーフとした柄は、幕府への献上品であったという由来から「献上柄」「献上博多」と呼ばれ、博多織を代表する柄といえる。

1677225749904-cEUpfK1lFo 博多織工業組合 HP より引用

1677226928307-wxVCHiqBtZ 「2023女性伝統工芸士展 ~作家とともに in 青山~」にて筆者撮影(撮影&掲載についてご了承済み)

「2023女性伝統工芸士展 ~作家とともに in 青山~」HP

2006年には博多織ディベロップメントカレッジ(DC)が設立された。博多織DCにて、博多織に関わるクリエーター/プロデューサーが毎年育成され、鎌倉時代から続く博多織の歴史を次世代へと繋げている。

博多織DC:https://www.hakataoridc.or.jp/

02 博多織の特徴

  • 一度締めると緩みにくく、締めるときにキュッキュッという音が鳴る。

  • 800年近い歴史があり、各時代の職人によって温故知新が繰り返されている。

  • 互いに方向性の異なる糸によって価値が織り成されており、一種の新結合(イノベーション)が体現された工芸品といえる。

03 知財情報からみる博多織

次に、博多織に関する知財情報を、明治時代まで遡って眺めていく。

特許第1921号:織物

出願日:1892.11.10 発明者:松居 工造 氏 J-PlatPat リンク

1677279116097-nRe8boBF0J 特許第1921号 より

明治25年に出願された特許第1921号は、紙煙草入れに適した織物についての発明である。三枚に織り成された点に特徴があり、福岡市博多下土居町(現:博多区下川端町)の発明者によって特許出願された。

特許第11724号:漣織

出願日:1906.7.19 発明者:中西 金次郎 氏 J-PlatPat リンク

1677304181102-iPCdSdpq4w 特許第11724号 より

明治39年に出願された特許第11724号は、経糸の緊張と弛緩を制御しながら緯糸を打つことによる、漣(さざなみ)織に関するもの。博多織元である中西金次郎によって発明された。

特許第68809号:電気的紋織装置

出願日:1925.2.7 発明者:中西 金作 氏 権利者:中西 金次郎 氏 J-PlatPat リンク

1673834702843-ox9gVLOdFM 特許第68809号 より

漣織の発明から約19年。中西金次郎の息子:金作により、電気紋様装置が発明された。大正14年に出願された特許第68809号を皮切りに電気紋様関連の発明 (*) が成され、中西親子には全国発明表彰  大賞(1938年)が贈られた。

(*) 例えば、特許第78515号, 特許第108638号。

<参考>
全国発明表彰 歴代の受賞者一覧|全国発明商標|公益社団法人発明協会HP
電気紋織-博多織から生まれた技術革新-|福岡市博物館

最後は、令和に入り考案された帯に関する実用新案登録を紹介する。

【六本着】実用新案登録第3234516号:帯

出願日:2021.8.5 権利者:株式会社黒木織物 J-PlatPat リンク

1672905838462-ZpMIn64cSA 実用新案登録第3234516号 より

一本で6つの柄を楽しむことができる「六本着」は、株式会社黒木織物により開発された。一本で様々なコーデを選ぶことができ、着物の楽しみ方が増す逸品である。なお、帯・和服分野において文字商標「六本着」は商標登録されている。実用新案権・商標権を取得したオリジナル商品として、次世代への継承に寄与することが期待される。

六本着|博多織 黒木織物

【あとがき】博多織を紐解いてみて

福岡を代表する工芸品「博多織」について、その歴史を学びながら知財権の情報を調べてみました。鎌倉時代から伝わる博多織の奥深さとともに、中西親子による電気紋様技術(特許第68809号等)や、令和に生まれた「六本着」が印象的でした。約800年もの歴史を紡いできた伝統的工芸品に対して新たな視点が掛け合わされた、素晴らしい事例かと思います。

1673832363745-xSbVX0lOvp 博多織の代表的柄「献上博多」が示されたしおり(筆者撮影)

伝統的工芸品は、技術によって得られる機能的価値だけでなく、歴史を通じた情緒的な価値がある唯一無二のもの。日本にとって代替できぬ「地財」であり、後世へと伝えていきたいものです。

データ活用や人工知能技術の発達が進み、我々の存在や仕事の意義が問われ始めているように思える現代。伝統的工芸品は、大事にすべき心の拠り所といえるかもしれません。

参考情報
博多織工業組合
電気紋織機, 技術と文明, 1988 年 4 巻 2 号 p. 51-56
献上と博多織の歴史, 繊維学会誌, 2005 年 61 巻 10 号 p. P_273-P_277
博多織手機技能修士 森本 美生|明日への扉 by アットホーム

ライティング:知財ライターUchida
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