Pickup
Sponsored
2021.07.27
インタビュー | 福田 浩一×小出 俊夫
NEC未来創造会議が臨む未来構想―人が豊かに生きるための新時代のネットワーク“エクスペリエンスネット”とは?
NEC 日本電気 株式会社
NECが、次の未来を作るべく動き出している―。同社は2017年「NEC未来創造会議」と題し、企業の枠を超えて未来のあるべき姿の探求をはじめた。プロジェクトが目指すのは、“人が豊かに生きる”ための「意志共鳴型社会」。現在は同社が誇る最先端の技術を生かし、次の時代の人間や社会のあり方の実現に向けた数々の実験の真っ最中だ。本インタビューでは、NECの未来構想策定の中核を担う「NEC未来創造会議」の中心メンバーのお二人に、プロジェクトが目指す未来構想について伺った。
2050年を見据えた未来構想の始動と軌跡
—「NEC未来創造会議」の活動の概要と、プロジェクト立ち上げの経緯を教えてください。
福田
「NEC未来創造会議」とはNECが2017年に立ち上げた活動で、国内外の有識者とともに「実現すべき未来像」と「解決すべき課題」、そして「その解決方法」を構想するものです。立ち上げの背景には、2050年頃の「シンギュラリティ」を見据えたときの社内の議論がありました。未来を見据えた時に最も重要で構想すべきものは、世界や社会のありたい像を考えることや人間が“どう生きるか”を考えておくことなのではないかということです。そこから目指すべきゴールを描きその実現に向けた「NEC未来創造会議」が始動しました。
NECは、2050年という30年後の未来を見据えて、国内外の有識者とともに実現すべき未来像と解決すべき課題、その解決方法を構想し、パートナーと実現にむけた活動を進めている。
─「NEC未来創造会議」は、どのようなメンバーで構成されている組織なのでしょうか? また、お二人の役割も教えてください。
福田
プロジェクトは、NECの営業や海外担当など社内でもさまざまな部門から人材が集まる社内横断の組織です。現在は3つのチームで構成しており、今後の未来を考える未来構想チーム、学校の授業やコミュニティのトライアル事業を行う社会実験チーム、そしてそれらを技術面で支える技術チームがあります。僕は、事務局メンバーとして運営に携わっています。
小出
僕は第三期として、昨年度からメンバーに加わりました。技術チームに所属し、技術開発の分野の構想の実現に携わっています。
左:福田 浩一氏・右:小出 俊夫氏
─ 発足から約3年経ちますが、これまでの具体的な活動内容を教えてください。
福田
名前の通り、2017年の当初は社外の有識者の方々をお呼びし「会議」を行うことがメインの活動でした。初年度はITやテクノロジー関係の有識者の方々が多かったのですが、業界の垣根を取り払い多様な視点を取り入れるべく、回を重ねるごとにお呼びする有識者の方々のジャンルを広げました。羽生善治棋士や、アーティストのスプツニ子!さんにもご参加いただくなど、さまざまなバックグラウンドを持つ方々をお迎えしています。活動内容は毎年アップデートしており、立ち上げ翌年の2018年はNECの実現したい未来像を社内外に認知してもらうため「意志共鳴型社会」というキーワードで積極的に社外にも発信しはじめました。次の2019年度は、具体的に未来像を実現するための概念である「エクスペリエンスネット」というものの必要性を提唱しています。昨年2020年度からは、それまでに描いた未来像やビジョンを踏まえ、より実現可能なものに具現化すべく社外のコミュニティを巻き込みながら数々の“実験”に着手しています。
コンセプトは数々の“分断”を乗り越える「意志共鳴型社会」
─目指すべき社会のあり方として「意志共鳴型社会」を掲げています。「意志共鳴型社会」とは何か、あらためて教えてください。
福田
「意志共鳴型社会」は、目指すべき未来像であり、「NEC未来創造会議」のコンセプトでもあります。このコンセプトが生まれた背景にあるのは、「分断」というキーワードでした。僕たちの世界には、見過ごすことのできない多くの「分断」が存在しています。私たちは分断を人間・社会・環境・未来の4つで示しています。 例えば人間で言えば、世代間や性別などによる考え方の分断。 社会で言えば民族・国・地域間における主張の違いなどの分断。 環境に関しては、人間が環境の恩恵を感じなくなっていることなどの分断。 そして、今が良ければという考えで先代から受け継いできたものを次世代に渡さないという未来との分断があります。「NEC未来創造会議」では、次の豊かな社会の実現のためには社会の中に潜むさまざまな「分断」を乗り越える必要があり、人の意識と技術の両面でできることを取り組んでいく必要がある、そう考えたんです。
「意志共鳴型社会」を実現するための4つのテクノロジー
福田
つまり「意志共鳴型社会」とは、社会において人が何か実現したいことを考えたときに、自分の所属する地域や国などにとらわれずより広い視点で考えることができ、環境にも配慮した上で、先の未来のことも慮ったアイディアで進められる。そしてその個人の思いに対して周囲も“共鳴”して協力できる、そんな社会のことを表しています。
インターネットを超越する次世代の概念「エクスペリエンスネット」
─インターネットが普及する中で起こる弊害を解決する存在として「エクスペリエンスネット」というキーワードを掲げています。「エクスペリエンスネット」とはどのようなものを表す言葉ですか。
小出
「エクスペリエンスネット」とは、「意志共鳴型社会」を実現するための基盤となる新しいネットワークの概念のことです。あえて「インターネット」と対比することでイメージがしやすくなるので、三つの視点で「インターネット」と「エクスペリエンスネット」の二つの違いを説明しますね。一つ目は、「何を伝えているのか」の違いです。インターネットでは、情報やデータのやりとりを通じてキーワードで検索したり、SNSでシェアしたり、共通の興味関心の人とつながることができます。けれど、インターネットには実は解決できない弊害があります。例えば、SNSで有名人が炎上したりバッシングされるということも頻発していますが、それはつまり発信者の意思や情報の受け手の気持ちは全く伝わっていないということです。これに対して「エクスペリエンスネット」は、目的自体に「人の意思」や「体験」を共有することがあります。これだけでは、まだもやもやしていてわかりにくいですよね。
小出
二つ目は「何を指しているか」の違いです。「インターネット」という言葉はシステムやネットワークを指しますが、「エクスペリエンスネット」は、システムではなく「コンセプト」を指します。インターネットが「エクスペリエンスネット」に取って代わられるのではなく、インターネットは手段で「エクスペリエンスネット」は実現すべき概念と理解していただきたいです。最後の三つ目は「目的」の違いです。インターネットは、データをやりとりするシステム構築や効率化の中に目的がありますが、「エクスペリエンスネット」の場合は体験を共有することで人間力を向上することを目的に据えています。インターネットは「いつでもどこでも誰とでも」と称されるように“When”、“Where”、“Who”などの「分断」を乗り越えてきました。けれど「エクスペリエンスネット」は“Why”を乗り越えるものです。「エクスペリエンスネット」を通じて体験を共有することで、「なぜそれが起こっているのか」「なぜこの人々はそれを行うのか」といったことを体験を通じて理解し、その結果「分断」を乗り越えることができるという考え方です。
─インターネットは手段、エクスペリエンスネットはコンセプトと捉えることができるのですね。
小出
はい、「エクスペリエンスネット」はコンセプトであり、より上位の考え方にあたります。僕らはこの考え方を提唱すると同時に、そもそも「エクスペリエンスネット」とは何かを考えること自体も研究としています。この概念を追求すると、これまでの技術開発にとどまらず、社会における総合的な人間のあり方の探求にもつながるので、経済学や心理学等にも研究範囲を拡張する必要があると感じているところです。
─「エクスペリエンスネット」を具体化させ、よりわかりやすく広い世代に伝えていこうという取り組みで、高校生向けの授業教材として「ACT for 2050 知財カード」というものを『知財図鑑』と協業して制作させていただきました。
小出
同カードは「2050年の未来を考える」というテーマで制作したものです。実現可能な技術とイメージしやすい妄想のストーリーを掛け合わせることで、まさにカードを見る人が模擬体験できるようなカードに仕上げました。カードには、特定の人が取得する情報が偏るとそれに連動して窓が曇る「バイアス・ウィンドウ」や、人が行った良い行動に対して人工知能(AI)が記録しホログラムとして映し出すことができる「エア・ガーディアン」などがあります。まさに最先端の技術を活用しながら体験を共有できる「エクスペリエンスネット」の具体例のさまざまな形を、高校生にもわかりやすく理解してもらうツールとして優れたものだったと思っています。
NEC未来創造会議と知財図鑑が共同で制作したカード教材「ACT for 2050」。表には知財の詳細が、裏にはその知財を元に知財図鑑が妄想した未来の活用法が描かれている。
NECの知財「秘密計算技術」から妄想された「BIAS Window | 情報が偏ると曇り、多様化すると晴れる」
ビジョンの具現化をはかる社会実験への挑戦
─「NEC未来創造会議」が今最も注力していることは何ですか。
福田
昨年度から注力しているのはやはり「社会実験」です。直近では先のカードを利用し、意志共鳴型社会を叶える人材を育成する授業を高校へ提供したり、「共感」を軸にしたコミュニティ通貨を立ち上げて経済を回す仕組みを開発したりと、実際の社会に対してどのようなアクションができるのかの数々のトライアルを仕掛けているところです。僕たちは「意志共鳴型社会」を目指す上で、会議の議論にとどまらず何かしらの「もの」や「こと」を作ることを最も目指していきたいです。実験に参加してくれた高校生もそうでしたが、人は実際の技術が具現化されたものを見ながら「これが面白そう」「これに興味がある」と言ってくれるものなので、これからもアウトプットの形を広げていきたいなと思います。
─ビジョンを具現化して世の中に発信することで、共感する個人や団体がますます増えていきそうです。
小出
社外連携がとても重要だということをよくプロジェクト内でも話しています。今後は、他の企業や学校などと横断的に連携しながら「実験」としてトライしていくことが鍵になるはずです。『知財図鑑』と形にした、“ひとつのプロダクトにかかったエネルギーが重みで体感できる”「トレーサブルボール」も、重要な具現化の一例です。概念でしかなかったものが、ひとつの「もの」や「こと」になることで、それが誰かの目に触れるきっかけになる。それを見た誰かが「これが実現できるのだったら、あの技術をつなげてこんなことが実現できそう!」と連想が広まる形で、連鎖的につながっていくのではないでしょうか。
NECの知財である高速ブロックチェーンから妄想された「TRACING Ball |「プロセスの重さ」を体感するボール」
福田
今は、NEC主催のプロジェクトということで、必然的に理系の男性で平均年齢45、6歳といった、NECの企業内の平均の属性のメンバーが多い状況です。現在取り組む「次世代教育」などでは特に今の若い世代の意見もふんだんに取り入れていきたいですし、今後はぜひ年代も属性も幅広い人に来てほしいと思っているところです。
構想×技術の可視化で挑む、新たな展開に向けたフェーズ
─今後も我々『知財図鑑』とも共創できることを見出していきたいです。今後の取り組みで『知財図鑑』に期待することはありますか。
福田
今回『知財図鑑』と協業して制作したカードは、まさに未来の妄想に具体的な技術を組み合わせた興味深いアウトプットの形だったと思っています。先に紹介したNECの知財以外にも、「人の声から感情・気分を読み取る人工知能(AI)」や「食品素材で自在に立体を作り出す3Dフードプリンター」など、知財図鑑さんに掲載されているユニークな知財も題材にさせていただきました。実際の生活や使用シーンまで想像ができてライフスタイルもイメージしやすいものこそが新たな発想やつながりを生むのだと考えています。今後もぜひ共同企画として新たなことを企画できるといいなと思います。
小出
これから色々なアウトプットの形で実現する「エクスペリエンスネット」という概念は、多種多様な技術で構成されていくものだと思います。「エクスペリエンスネット」を支える技術を知財図鑑で参照できたり、ジャンルやタグで横断的に検索できる仕組みになっていれば面白いのではないでしょうか。そうして可視化することで「このアイディアとこの技術がつながれば、こんな面白いことが実現できる!」とひらめく方が現れるかもしれません。はたまた掲載をきっかけにスピンアウトして「実際に作りましょう」となったりすれば、また新しい発展の形が見えてくるのではないでしょうか。
─プロジェクトの今後の可能性にますます目が離せません。最後に、運営するお二人の実現したいことをお聞かせください。
福田
僕は、次世代教育や多世代交流の分野での取り組みを進めて、新しい世界観を実現することに興味があります。今後日本はいっそうの高齢化社会を迎え、人数の少ない世代が社会活動を支えなければいけないタイミングが来ます。その際にも世代間の壁を取り払いながら交流を活性化し、世代を超えて価値観を共有し合うことでみんなで作り上げられる世界を実現したいです。これは同地域で異なる年代の「縦」の軸ですが、日本から他地域へ広げる「横」の軸も広げられればいいなと。アジア、ヨーロッパ、はたまた地球の反対側のブラジルまで、垣根を超えて交流することでお互いの視点や価値観を混ぜながら、次の未来の世界を作りたいなと思います。
小出
僕は、NEC未来創造会議の「ファンクラブ」のようなものを社外に作っていきたいです。実は、何かしらで社外の人たちと意見交換できる場を準備しているところでもあります。未来を作る若い世代の方々など幅広い世代の人がいてこそ本当の未来が考えられるはずなので、「NEC未来創造会議」に共感してくださる方々とともに、世界の“これから”を形作る活動を進めていきたいですね。
Text:大久保真衣