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2021.09.10
レポート | 体験レポート
SF作家によって描かれる“2050年の東京のものがたり”とは?─Sony Park展 「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping - Sony Design」
ソニーグループ 株式会社
いよいよ今年10月から、2024年のリニューアルのために休業期間に入るGinza Sony Park。現在は、ソニーのデザイナーとSF作家のコラボレーションによる『ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping』を、2021年8月31日(火)~9月13日(月)まで展開しています。
今回の展示のアイデアベースとされている「Sci-Fiプロトタイピング」とは、SF(サイエンス・フィクション)を用いて未来を構想し、それを起点にバックキャストして「いま、これから何をすべきか」を考察する技法。テクノロジーから新たな未来の価値を起案する知財図鑑の「妄想プロジェクト」にも通ずるこのSci-Fiプロトタイピングによって、どのような“2050年の東京”が描かれているのか? 展示を見た知財ハンターがその様子をレポートします。
■4つのテーマで描かれる未来の東京
今回の展示ではソニーのデザイナーとSF作家がコラボレーションし、Sci-Fiプロトタイピングの手法で「2050年の東京」が描き出されています。
2050年・東京・恋愛という3つのキーワードを大きな傘とし、「WELL-BEING」「HABITAT」「SENSE」「LIFE」の4つのテーマを軸にサービスやプロダクトを提案する「デザインプロトタイピング」と、SF作家による「SF短編小説」で表現されています。
まず展示の冒頭には以下のようなステートメントが提示され、本企画がコロナ禍を経た先の、新しいコミュニケーションや暮らしのスタンダードを予見したものであることが伺えます。
これまで過ごした月日のなかで、
わたしたちは想像さえしていなかった日常の変化を体感した。そして、2050年の東京。
かつて描いたScience-Fictionのものがたりは、
現実となって目の前に姿を著(あらわ)すかもしれない。そのとき、あなたは誰のとなりで、
どんな気持ちでその世界に在るだろうか。ONE DAY, 2050:
わたしたちは、いつか来る日に思いを馳せる
会場に入場すると、展示エリアの中に4つの「デザインプロトタイピング」が設置されています。これらはSF作家のストーリーから生み出された未来のサービスの「プロトタイプ(原型・試作品)」となっており、来場者は間近で眺めたり体験することで、SF作品さながらの未来の生活の一端を感じることができます。
01「WELL-BEING, 2050」
▼デザインプロトタイピング:「Resilience Program(レジリエンス プログラム)」
概要:人々がレジリエンスを身につけるサポートをしてくれる、2050年のAIカウンセラー。あなたのストレスや感情の変化をどのように感知し、どのような姿でストレスを緩和するのかを表現しました。
短編ムービーによる利用シーンのイメージ。コンプレックスを抱えていた「父」や、不本意な別れをした「恋人」など、自らが求める姿形をセンシングを経てホログラムで映し出す。
こちらのプロトタイプは「突然の失恋」「仕事の失敗」「家族の死」など、心が挫けそうになった時にAIカウンセラーが感情の変化やストレス値などのデータから最適なカウンセリング方法をカスタムメイドし、自分自身が求める姿形に変化することでレジリエンス(そこから立ち直る回復力)の獲得をサポートするというもの。
首元や指などにバーコード状にインプットされたセンシング装置がスタイリッシュです。新時代のボディハッキングとして、ファッションやカルチャーの一部としても未来の人々の生活に溶け込んでいきそうです。音声から気分・感情を判定する「Empath(エンパス)」や、オーラを可視化するシステム「aura meditation」などを組み合わせれば実現がありえそうです。
02「HABITAT, 2050」
▼デザインプロトタイピング:「Floating Habitat(フローティング ハビタ)」
概要:多種多様な文化圏の人々が生活する海上における人と人の共生、あるいは自然環境との共存は、いかにして可能なのでしょうか。2050年の海上での人々の生活とエコシステムを「住居」の視点から表現しました。
2050年には気候変動の影響によって住む場所をなくした「気候難民」や、政治的問題から居住する国を出なければならなくなった移民が増えている、という仮設のもと設計されたのがこのプロトタイプ。人々が水上移動式住居によって、世界中の海上を移動して暮らす未来を描いています。
海辺や川辺の再開発のみならず、ドローンなどで空中すらもスペースが枯渇した2050年の未来では、海上をインフラの土台として人間は活動領域を広げているのかもしれません。そうした場合には、「環境活性コンクリート」のような自然環境に負荷をかけない素材や技法が注目されていきそうです。
03「SENSE, 2050」
▼デザインプロトタイピング:「Sensorial Entertainment(センソリアル エンタテインメント)」
概要:2050年、香りを楽しむエンタテインメントとはどのようなものか。蓄積された膨大な感情データをもとに過去に嗅いだ香りの再現を可能にするサービスとツールを構想しました。
コロナによりマスク着用の文化が生まれた近年。もしかしたら、2050年でもその風景は変わらないのかもしれません。視覚・聴覚に続いて、五感の中でも感情や記憶に直接影響すると言われている嗅覚を用いたエンタテインメントを体験するためのアイテムとして構想したのがこの全く新しいマスク型のプロトタイプ。
現在でも「KAORIUM(カオリウム)」や「味覚センサーレオ」など香りや味覚のデジタル化を目指したテクノロジーの研究は各所で進んでいますが、2050年においては香りや味を他人とも共有し、データベースとして活用したり新しいエンタテインメントとして体験することが当たり前になっているのかもしれません。
04「LIFE, 2050」
▼デザインプロトタイピング:「Life Simulator(ライフ シミュレーター)」
概要:ライフスタイルや価値観が多様化すれば、個々人に最適化された人生設計が求められるはず。人生の可能性を高精度にシミュレーションできるサービスを構想しました。
複合的なセンシング技術による超高度なマッチングで、自らに最も適した職種をシュミレーションしてアテンドしてくれるプロトタイプ。興味のある領域をセレクトするとセンシングデータと合わせて、静けさに特化したスペースをデザインする「サイレンスデザイナー」や「代替肉のラボの経営」など、未来にはスタンダードになっているかもしれない職種をマッチングさせてくれます。
現在でも、音楽の分野で「Spotify」が価値観に最適化されたレコメンドを実装しているように、未来の就職・転職の際にはAIが個人の感性・適正・趣味嗜好を尊重し、人生を高度にデザインすることをデジタルな視点から助けてくれるのかもしれません。
■全体所感
◯展示を訪れた“知財ハンター”たちのコメント
・冒頭のアニメーションで世界観をストーリー仕立てにわかりやすく伝え、多様な未来への可能性を感じました。
・ストーリーとしてはとても面白いが「ほんとにこんな未来になるの?」という疑念を抱きつつ、奥の展示へ進むと、その各ストーリを補足する形で、より具体的にその未来を示すプロトタイピングが並んでいました。いずれもストーリーの説得力を増し、「これなら起こりそう」「これはもうできそう」と思えるようなものばかりでした。
・あまり広くないスペースながらも、非常に見応えがありました。不確定な未来を描き、技術とストーリーを掛け合わせて描くことでワクワクが湧き出る展示でした。
・ポジティブな印象を抱きつつ、本当にこれらが実現した場合にはおそらく解決しないといけない社会の課題とも表裏一体なのだろうとも感じました。例えば、「超高度なレコメンド」が進んだ先にはフィルターバブルや自発的な意思決定が希薄になる社会があるのかもしれないし、「海上の住居」が発展した先にはローカルや海洋環境との豊かな共存の工夫が必要となりそう。
まだ現在には存在していない未来の「妄想」を、実際に間近で見ることができるプロトタイピングやムービーに落とし込んだこの展示。それぞれが細部までデザインされており、利用シーンを鮮明にイメージすることができるため、2050年の東京をより手触りのある世界として感じとることができました。
これらのプロトタイプを実現させるためのテクノロジーと、そこに交差するクリエイターの想像力とデザインの力、未来を洞察しバックキャストして「今」を考える重要性を改めて感じました。
「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping - Sony Design」は9月13日(月)まで。テクノロジーやSFに興味がある方はもちろん、未だ先行きの見えないコロナ禍に不安を感じ、新しいライフスタイルやウェルビーイングを求めている方も、ぜひ足を運んでみてください。
展示に来場すると、今回の展示で使われた「SF短編小説」が全て掲載された冊子を一人一冊持ち帰ることができます。全90Pで、かなりの読み応え。2050年までの架空の社会と技術の変遷を描いた「未来年表」も必見です。
■開催概要
タイトル:Sony Park展『ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping』
期間:2021年8月31日(火)- 2021年9月13日(月)11:00~19:00
場所:Ginza Sony Park PARK B3/地下3階
料金:入場無料(事前予約不要・人数制限あり)
「ONE DAY, 2050 / Sci-Fi Prototyping - Sony Design」HPはこちら
文:知財ハンター/松岡 真吾