No.612
2022.02.24
“月産月消”で持続的な宇宙農業を実現
月面植物栽培技術
概要
「月面植物栽培技術」とは、月の砂からできた人工土壌で植物栽培を行う技術。現在、宇宙に滞在する人の水や食料は地球からの輸送補給で賄われているが、輸送に莫大なコストがかかる。月面での活動も例外ではなく、長期有人活動には月面資源の活用や物資循環が必要となる。本技術を活用することで月面の資源を活用した植物栽培が可能となり、月面の人工光型植物工場のような施設で植物栽培を行うことで、滞在期間中のQOL(生活の質)を向上させ、持続的な月面活動や宇宙開発を実現する技術として期待されている。
月の模擬砂から製造された多孔体
1990年に大林組が発表した火星居住計画構想のイメージ
なぜできるのか?
植物栽培が可能な土壌にする「月の砂」
大林組とTOWINGが共同で、月の砂を植物栽培が可能な土壌とするための技術を開発。大林組は、月の砂をマイクロ波やレーザーを用いて建材化する技術開発をJAXAなどと実施しており、TOWINGは無機の多孔体(活性炭やゼオライト、軽石などの内部に細孔を有するものであり、主として触媒担体や吸着剤などに利用されている)を設計する技術や、有機質肥料を用いた人工土壌栽培を可能にするノウハウを保有している。本技術の植物栽培実験ではそれらの知見を組み合わせて、月の模擬砂から多孔体を設計・製造し、それを土壌化してコマツナを栽培することに成功した。
廃棄物を有機質肥料とする人工土壌
宇宙での植物栽培に水耕栽培や養液栽培を用いると、化学肥料を地球から運ぶか、宇宙で製造する必要がある。本技術は、有機物を肥料として利用していることから、人間から排出される糞尿や食品残渣(ざんさ)などの有機性廃棄物を循環利用し、化学肥料の製造が不要になるため、高効率に植物生産し持続可能な農業を実現できる。
高い回収率で多孔体を製造
土壌とする多孔体は月の模擬砂をマイクロ波で加熱焼成し、製造する。その際、温度状況に偏りが生じて、植物栽培に適した多孔体の割合(回収率)が下がることがあるが、宇宙ではエネルギーが貴重な資源であるため回収率を上げることが必要となる。本技術では、均質に加熱できるため、製造物のほとんどのものが植物栽培に適したものとなり、エネルギーが有効活用できる。
さまざまな植物種の栽培と食味の再現
土壌由来の微生物を利用するなど土壌で育てる条件に近いため、根菜類や大きな作物などの栽培も可能。今後、葉の硬さなど人の身体的な感性に訴える多様な食味を再現してくことができる可能性がある。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。
Top images:© 株式会社 TOWING