No.1029

2025.04.07

フィジカルとデジタルが混ざり合う“新しい自然”を体感できるパビリオン

null2

null_top

概要

「null²(ヌルヌル)」とは、フィジカルとデジタルが混ざり合う、「2つの鏡」をコンセプトとしたパビリオン。鏡面状の膜材を用いた「変形しながら風景をゆがめる」建物と、デジタルの分身(アバター)や自律的に変化するAIなどとの対峙で、フィジカルとデジタルの境界が交錯する未知なる体験ができる。大阪・関西万博のパビリオンの1つで、人間や物質世界と情報技術が融合した新たな自然「デジタルネイチャー(計算機自然)」を象徴する建物として建設した。パビリオンのテーマは「いのちを磨く」。デジタルネイチャーの体験を通して身体性や自己認識を揺さぶり、「自分とは何か」「生きるとは何か」「社会とは何か」などを問いかける。建物やデジタル基盤などは、万博後の再利用や社会実装を見据えて構築しており、博覧会やアートの意義も拡げると期待されている。

null_sub

なぜできるのか?

動的に変化する建物の構築

“動的な建物”を創るというコンセプトのもと、建物の形状や外装などを設計・開発した。コンピューターの3次元空間で立体を表現する「ボクセル」(Volume(体積)を持つPixel(ピクセル))をモチーフに形状を設計。大きさが異なる立方体を積層して組み立てる工法を用い、編集しやすく再利用もしやすい建物を建設した。建物の表面は、開発した鏡面状の膜材で覆い、周囲の風景を映し込むような外観を構築。膜材には伸縮性を持たせており、振動や自然風で揺らいだり、波打ったり、歪んだりと変化する。さらに、ロボットアームで膜を押す・捻るといった仕組みや、巨大なウーファー(低音スピーカー)の音振動で膜を揺らす機構を開発。生命体のように動く建物を実現した。

滑らかな鏡面を表現する膜材の開発

軽くて薄い、鏡面仕上げの特殊な膜材を開発した。金属と樹脂を組み合わせ、プロトタイプ開発を重ねて膜材を構築。曲面適応性や伸縮性などを持つ膜を開発し、普通の鏡では難しい、「ヌルっとした」滑らかな鏡面を実現した。鏡面性も高く、揺らいでいない状態では、現実世界と映り込んだ風景の境界も滑らかにする。

デジタルに融け込む没入空間の構築

建物内部のシアター空間は、鏡と特殊なLEDで床・壁・天井を取り囲んで構築。360度の全方位を映像で満たして没入体験を提供する。来場者は、3Dスキャン装置や専用アプリで作った自身のデジタル分身(アバター)と向き合ったり、対話したりが可能。アバターはシアター内の「モノリス」に投影され、参加者と共有できる。映像システムには生成AIも活用し、来場者の言葉などに応じてリアルタイムに映像を変化させて投影。天井に設置したロボットアームの先のミラーキューブは、映像とリンクして動く。フィジカルとデジタルが融合した空間に没入できる。

デジタルアバター型ID基盤の開発

デジタルアバター型ID基盤「Mirrored Body®(ミラードボディ)」を新たに開発した。パビリオン周辺の3Dスキャン装置や「Mirrored Body®アプリ」で、NFTと紐づいたデジタルアバターを作成できる。アバターには身体情報が記録され、自身の声や動作などのデータを蓄積することで、よりリアルな本人に近づく。公開されているアバター同士で会話もできる。
個人データはブロックチェーン技術を用いて記録し、改ざんを防いで、唯一性や安全性を確保。併せて、デジタル資産・データ管理の安全性を高める「Mirrored Body hardware wallet」も開発しており、セキュアに利活用できる。健康管理や本人確認などでの展開を見据えている。

「デジタルネイチャー」構想

10年ほど前から提唱してきた「デジタルネイチャー(計算機自然)」構想がベースにある。単なるデジタル空間の自然ではなく、「人・モノ・自然・計算機・データが接続され脱構造化された新しい自然」であり、「人間・自然・テクノロジーが混ざり合い、流動的に変容し続ける新たな生命圏」で、「null²」ではそれを具現化した。
背景には、計算機科学における「null(未定義状態)」の概念と宗教・哲学的な思想がある。『般若心経』の「空即是色、色即是空」(およそ形あるものには実体がなく、本来実体がないものこそすべての事物の姿)や、老荘思想の「無為自然」(人為なく自然の流れ(道)に従って生きること)といった概念を絡めて着想。ドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」(人間の意識的な社会活動を芸術作品と見なし、芸術は社会を変革する力になるといった思想)も「null²」で体現している。

相性のいい産業分野

住宅・不動産・建築

デジタルネイチャーをいつでも体感できる常設施設を設置

アート・エンターテインメント

美術館や映画館、舞台、音楽ホールなどに採用し没入体験を提供

旅行・観光

風光明媚な景観を映し込み変化も楽しめる観光資源として活用

生活・文化

アバターを通じた自己対峙でメンタルヘルスを向上するカウンセリングサービスの展開

教育・人材

記録した思考・行動をもとに顧客対応やサービス提供するアバタービジネスの開発

IT・通信

生前の思考や経験をアバターに蓄積して後世に活用できる遺産管理システムの開発

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。

-------

事業プロデューサー・全体設計/開発:落合 陽一
基本設計:NOIZ
実施設計・施工:フジタ・大和リースJV
膜材開発・設計・施工:太陽工業 株式会社
ロボット開発:アスラテック 株式会社
Mirrored Body®開発:株式会社 サステナブルパビリオン2025

-------

Top Image : © 2023 Yoichi Ochiai / 設計:NOIZ / Sustainable Pavilion 2025 Inc.