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2024.07.10
知財ニュース
奈良県立医大、常温で長期保存できる「人工赤血球」輸血製剤の治験本格開始―血液型問わず利用可、10年以内の実用化目指す
奈良県立医科大学は、「人工赤血球」による備蓄可能な血液製剤で、人の臨床試験(治験)を始めると発表した。2024年7月1日、同大学医学部の酒井宏水教授ら研究グループが記者会見を開いて明らかにした。2025年度の開始を予定している。
献血で集まった血液のうち、有効期限が切れた血液などを再利用して「人工赤血球」を作製し、安全性や有効性を治験で確かめる。実用化されれば、災害など緊急時での危機回避や、少子高齢化で不足する輸血用血液の補填が可能になる。今後10年以内の実用化を目指すという。
「人工赤血球」製剤は、日本で開発された新しい医薬品候補物質で、実用化されれば世界初となる。最大の特徴は、常温で約24カ月保存できること。ドクターヘリや救急車でも簡単に持ち運びできる。
従来の輸血用製剤は、冷蔵が必要で、保存可能な期間が約1カ月と短い。そのため、大規模災害やテロなどの有事、離島やへき地、夜間救急など、緊急時の輸血用血液製剤の供給不足が課題だった。
研究グループは、赤血球内で酸素を運ぶ役割のヘモグロビンを覆っている脂質の膜の劣化に着目。酸化劣化を防ぐため、ヘモグロビンを人工の膜で包む技術を開発した。人工膜で状態を安定化させ、常温での長期保存を可能にしている。
血液型を問わずに使える点も特徴だ。赤血球の血液型を決める膜を除去しているため、血液型検査をせずにすぐに利用できる。安全性ももちろん考慮している。人工膜の作製には人の体内の成分を活用。製造プロセスの中で、ウイルスの不活化やろ過による除去を行っているため、通常の輸血よりもウイルス感染の危険性を低減できる。
本研究は、2015年頃から日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けながら推進してきた。すでに100ml程度の量で治験を行っており、人体への大きな副作用がないと確認している。製剤実用化の際は800mlほどの投与を想定しているため、今後の治験では400mlまで投与量を増やす予定。医師主導の治験で、その安全性や有効性を評価する。
Top Image : © 公立大学法人 奈良県立医科大学