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2023.02.02

コラム | 地財探訪

伝統弓具「都城大弓」を知財情報から探ってみた【地財探訪 No.13】

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本コラムは、地域の財産である「地財」を探訪するものである。全国の「伝統的工芸品(*)」の歴史を紐解きながら、関連する知財権情報と合わせて紹介していく。(知財権:特に、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)

(*) 伝統的工芸品:経済産業大臣によって指定された計237品目の工芸品(2022年3月18日現在)

例えば特許情報には、明治時代における職人の拘りや後世へ伝えたい想いなどが隠れているかもしれない。本コラムを通じ、百年以上の歴史がある「地財」である伝統的工芸品の新たな魅力を発掘していきたい。現代に生きる者として、先人が遺した知的財産を更に後世へと伝えていく姿勢が大事と考えるためである。

地財探訪第13弾は宮崎県「都城大弓(みやこのじょうだいきゅう)」

歴史を振り返りながら、職人技術について知財文献から拝見していく。(過去のコラム:第1弾 青森県「津軽塗」第2弾 沖縄県「琉球びんがた」第3弾 秋田県「大館曲げわっぱ」第4弾 岩手県「南部鉄器」第5弾 福井県「越前和紙」第6弾 愛知県「常滑焼」第7弾 宮城県「雄勝硯」第8弾 和歌山県「紀州へら竿」第9弾 東京都「江戸切子」第10弾 兵庫県「吹き戻し」第11弾 佐賀県「伊万里・有田焼」第12弾 京都府「京くみひも」

01 都城大弓の概要

「都城大弓」は、宮崎県都城市に伝わる和弓。江戸時代初期には製法が確立したとされ、200以上にも及ぶ工程を一人の弓師が手掛けていく。洋弓は全長170cm前後であるのに対し、都城大弓は七尺三寸(約221cm)もの大きさを誇る点が特徴的。平成6年に伝統的工芸品として指定。令和2年に地域団体商標「都城大弓」登録。

undefined 商標登録第6335370号 都城大弓(みやこのじょうだいきゅう)|特許庁 HP より引用

商標登録第6335370号 都城大弓(みやこのじょうだいきゅう)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/6335370.html

都城大弓の素材は、真竹と黄櫨(はぜ:ウルシ科の植物)。弓師が山へ竹を取りにいくことから制作が始まり、一人の弓師が数年がかりで仕上げていく。緑色の竹を煙で燻すことで色を付け、「煤竹(すすだけ)」と呼ばれる色になるまで5年以上の月日を要する。

その後、火入れを行い炭素化した竹を黄櫨で覆う。使用する黄櫨は20年以上も自然乾燥させたものであり、例えば祖父が準備した黄櫨を用いて大弓にする。弓師は、子やまだ見ぬ孫のために次の黄櫨を仕込むのだ。

そして100枚以上の楔を打つ「弓打ち」により弓に曲線を与え、伝承された素材に都城大弓としての命が宿っていく。

「弓打ち」のイメージ (画像:都城弓製造業協同組合HP より) 「弓打ち」のイメージ (画像:都城弓製造業協同組合HP より)

02 都城大弓の特徴

・和弓としての「審美性」に優れる。
・2mを超える大弓として「しなやかさ」「力強さ」がある。
・先代が仕込んだ黄櫨を使用し、次世代の弓師のために黄櫨を仕込むことから、弓を構成する素材までもが「伝承」されている。

画像:都城弓製造業協同組合HP より 画像:都城弓製造業協同組合HP より

03 知財出願情報からみる都城大弓

次に、昭和時代に出願された実用新案登録を紹介する。いずれも「都城弓師系譜(都城弓製造業協同組合HP)」に記載がある弓師によるものである。

【新宮善四郎 氏】実公昭10-15882:弓ノ試所

出願日:1935.9.2 考案者:新宮 善四郎 J-PlatPat リンク

実公昭10-15882 実公昭10-15882

弓の天部に長方形の穴(2)を設けることで、矢を放つときに穴内の空気を振動させて音響を発するというもの。音響は、射手による姿勢の良否判断や、弓の癖を直すにあたり便利とのこと。長方形の穴(2)に対し菱形の蓋(3)を設ける点がオシャレ。

【大峯義照 氏】実全昭49-121397:練習用大弓

出願日:1973.2.10 考案者:大峯 義照 J-PlatPat リンク

実全昭49-121397 実全昭49-121397

中高校生向きの大弓に関する考案。真竹ではなく材料豊富な孟宗竹を用い、本体(A)にビニールテープ又は同効質材(5)を被覆密着させる。これにより、乱雑な取り扱いが可能な練習用大弓を安価に制作することができるというもの。職人として弓作りの道を究める一方、和弓の裾野拡大を願って本考案に至ったのかもしれない。

【大峯義照 氏】実公昭50-33359:破魔弓

出願日:1973.5.15 考案者:大峯 義照 J-PlatPat リンク

実公昭50-33359 実公昭50-33359

縁起物の破魔弓に関する考案。従来の破魔弓は日時の経過とともに弓の形が直線状に変形してしまうところ、本考案では長時間経過後も変形しないとのこと。所定時間熱湯に浸けたまま型枠で挟持して弓状に構成するというもの。

なお、本件の出願日は、中高生向け大弓の出願から約3ヶ月後である。都城大弓を制作するに限らず、幅広い取り組みを進める姿勢が表れている。

【あとがき】都城大弓を探ってみて

都城大弓の制作にあたり、20年以上も前に先代が仕込んだ黄櫨を使用する点、そして次世代に向けて黄櫨を仕込むという点が印象的でした。まだ見ぬ子や孫に向け、材料の仕込みよって既に伝承が始まっているのでしょう。

そして、堀江善兵衛氏に始まり現在七代目である「楠見蔵吉」の銘は、和弓や弓道用具等の分野において商標登録されています。都城大弓の制作を通じて銘に蓄積された信用を、商標権で保護しているということです。商標登録は、先代が積み上げてきたものを守る行為といえるかもしれません。

商標登録第6637006号 商標登録第6637006号

参考:都城弓師系譜|都城弓製造業協同組合HP

伝統的工芸品は、その機能的価値だけでなく、歴史を通じた情緒的な価値がある唯一無二のもの。それは、その地域や日本にとって代替できぬ「地財」であり、後世へと伝えていきたいものです。

参考情報
都城大弓|都城弓製造業協同組合
都城大弓 弓師 横山 慶太郎|明日への扉 by アットホーム

ライティング:知財ライターUchida
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