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2024.03.22

レポート

未来の「はたらく」について語り合う【TECHNO PIZZA x 3L night】トークセッション・レポート

株式会社 リコー, Konel inc.

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未来の技術を体験できる先端テクノロジー体験イベント「TECHNO PIZZA x 3L night」が、株式会社リコー(以下、リコー)の実験的ワークプレイス「RICOH 3L」にて開催されました。Konelとリコーが共催し、最先端のR&Dプロトタイプの展示が行われたこのイベント。開発中のプロダクトを直接体験できるだけでなく、「未来の働き方」についてディスカッションするトークセッションも開催され、新たな発見やアイデアの交流の場となりました。

この記事では、リコー コミュニケーション戦略センター ブランド戦略室 室長の稲田旬氏、リコー 先端技術研究所 HDT研究センター リーダーの下川達也氏と、Konel/知財図鑑代表の出村光世の3名で行われたトークセッションの内容を詳しく紹介していきます。

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レポート前編はこちら:【TECHNO PIZZA x 3L night】体験レポート

つくる楽園


出村光世:僕らKonelが普段デザインやビジネスなどの仕事をする上で大事にしているのは「つくる楽園」という意識なんですけれど、アウトプットしたものが世の中に評価されるのはすごく大事なことだと思います。やっぱり作っている行為そのものが自分達にとって一番の報酬だと思っているので、環境やルール作りなど一つ一つにこだわっていきたいと考えています。
今日「RICOH3L」に来てみて、結構“楽園感”あるなあと思いました!稲田さんが開発に携わられたんですよね?

稲田:超ラッキーなことに、リコーの実践型研究所となる「RICOH 3L」の開設に携わらせてもらえまして。

出村:やりたい放題感がすごいというか、作る人のことだったりコラボレーションだったりと期待が持てる、素敵な空間だなと思います。

RICOH 3Lとは...

リコーグループゆかりの地の施設を全面的にリファインして生まれた、新たな聖地、3L(サンエル)。
3Lは、新たな価値を生み出そうとする全ての挑戦者が繋がり、ひとりひとりの“はたらく”歓びを追求しながら、チームの創造性を加速させる実践型研究所です。(公式HPより引用)

043 7HN6557 hn イベント「TECHNO PIZZA x 3L night」の会場となった、リコーの実験的ワークプレイス「RICOH 3L」

稲田:ここにシンパシーを感じて、本当に自分が作りたいものがあるクリエイターにはぜひ来ていただきたいですね。何か一緒にできればいいなと思っています。

出村:今日のトークセッションは結論のない世間話をしたいと思っています。みなさんの「妄想欲」と「具現欲」が急上昇することに狙いを当ててオペレートしていきたいです。

191 7HN6816 hn s トークセッションの様子

Why-What-How

Why─大企業がなぜ未来事業に取り組むのか?あたりまえが突然更新される時代

出村:そもそも「なぜ未来事業に?(Why)」というテーマについて、僕の方で2、3分話します。

我々Konelも「未来事業」つまり未来の訪れを早めることをコンセプトとして持っているんですが、そもそもなぜ未来事業が必要なのか。一つの原因に、常日頃言われている「VUCA」(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))というキーワードが出てくると思います。

高度経済成長の時は人々のニーズは共通していて、人口統計などからビジネスは大量生産によって拡大設計しやすかったのではないかと考えています。一方、今の情報化社会においては、それまでの産業のルールを破壊してしまうようなイノベーションがいつ起こるかわからない状態だったり、あたりまえが突如更新されるような世の中。これがVUCAが意味しているところだと思います。

世の中の全員が新規事業が必要なんじゃないか?というのが一般論としてあるように思いますが、リコーさんはどんなミッションを社内で設定されているんでしょうか?

175 7HN6793 hn s 左から Konel / 知財図鑑 代表 出村光世、リコー先端技術研究所 HDT研究センター リーダー 下川 達也氏、リコー コミュニケーション戦略センター ブランド戦略室室長 稲田 旬氏

稲田:僕はリコーのブランド推進をやらせてもらっているのですが、僕らは何のためにこの社会に存在するのかを考えるのが重要な仕事の一つだと思っています。

働く環境が大きく変化する中で、リコーが主戦場としてきたプリント事業はそれ単体だけでは相対的に価値が落ちています。そんな中、リコー会長の山下良則(リコー代表取締役会長、経済同友会副代表幹事)と出会う機会が転機となりました。彼は、市村清というリコー創設者が、何を考え会社を立ち上げ、どんな仲間を増やし、どんな社会を作りたかったのかを一度立ち返り、リコーが事業を大きく飛躍させた原点の地である馬込に本社を移転し、そこから未来を考えようという話をしてくれました。

創業者である市村清の永住の地となる自宅も構えていたこのリコーグループゆかりの地に戻ってきたことは、未来の社会に貢献する新しい価値を生み出していくという決意を表しています。

その挑戦の象徴のひとつが、市村清邸に隣接した研修施設の大森会館を全面的にリファンして生まれた、創業時の活況を体現する新たな聖地、3Lです。僕が現在取り組んでいるブランド戦略は、今この組織に所属している人たちが、リコーの社会における存在意義を理解し、共感を得られるかどうかを自分自身に問う、というフェーズにあります。

はたらくに歓びを与える

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稲田:リコーは「はたらくに歓び(よろこび)を与える」という、大きな社会課題に挑む、テックインテグレーションカンパニーを目指しています。
元々は社会に求められているものをいかに上手く作り、いかに多くの人に届けるかということをやっていて、それが社会に受け入れられてきました。我々が提供してきた価値をリコーは「オフィスオートメーション」という言葉で表現しました。

機械ができることはできるだけ機械に任せ、人は人にしかできない仕事に向き合う。機械と共にはたらく未来がきた時に、人は本当にやりたいことに注力することができると考えている。

「はたらく」という行為の中に、テクノロジーの力でポジティブな歓びという感情を芽生えさせたいです。創造性と生産性の両輪で、人々を支えていきたいと思っています。これを社会の存在意義に変えていかなければならないと考えています。

出村:はたらくことや歓びの意味が変わってきている中、今までやってきた事業ではないことに取り組んだり、とてものびのび作っていますよね。

143 7HN6757 hn s Konel / 知財図鑑代表 出村光世

稲田:僕らはGDP(Gross Domestic Product(国内総生産))のデータを長年とり続けてきたけれど、成長の陰で生活満足度=ウェルビーイングが一向に相関して上がらないことが、日本だけでなく世界で大きな社会課題になっています。国内総充実(Gross Domestic Well-being、略称:GDW)を上昇させ、ここの問題を解決することで、リコーの存在意義を見出そうとしています。

出村:GDPやGDWもすごく大きな問題でありながら、面白いと思います。

What─「未来のはたらく」のための共同研究 RICOH×Ars Electronica

出村:拡張された風呂敷が広げられているリコーの中で、「未来のはたらく」のために、どんな取り組み(What)をしていますか?

171 8HN6172 hn 左から リコー先端技術研究所 HDT研究センター リーダー 下川 達也氏、リコー コミュニケーション戦略センター ブランド戦略室室長 稲田 旬氏

下川:リコーはこれまでWorkからWork Placeを支援してきましたが、その次の事業の柱を作るべく、テクノロジーの力ではたらく人の自律的成長と、はたらく歓びの実感のためにサポートする研究開発をしています。実際に研究開発をするにあたって、「未来のはたらき方」をどう描けるかを考えており、オーストリアのリンツ市運営の先端技術やメディアアート等の教育文化機関「Ars Electronica(アルスエレクトロニカ)」との共同研究を実施しています。

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下川:まず未来のビジョンを描き、その未来を今に引き寄せるためのプロトタイピングをし、世の中に問うという形でプロジェクトを実施しています。ビジョンでは、アート思考を活用して、非連続で「未来のはたらく」を描くための取り組みをしてきました。そのためには、まず自分たちの中の“はたらくバイアス”を破壊しなければならないと思っていました。

私達は日頃はたらく中で人とインタラクションをしていますが、生きている中ではもっと人だけではないさまざまな存在からインスピレーションを得ているはずなんです。今後、そういった側面にまで目を向けて最大限創造性を引き出す働き方になっていく中、人以外の存在が仕事のパートナーになった時のコミュニケーション手段・「ノンヒューマンセントリック・プラネットセントリック」の時代におけるコミュニケーションのあるべき姿を、今回のプロジェクト「Future Terms」で考察しています。

image3 “はたらく”に歓びを の実現に向けたコンセプト「Future Terms」。 左:生成AIを象徴するアイディアマン
/中央:五感を象徴するケアラー
/右:地球の声(植物の声)のスポークスマン(代弁者)

image16 “はたらく”に歓びを の実現に向けたコンセプト「Future Terms」

下川:オーストリアの世界的メディアアートの祭典「Ars Electronica Festival(アルスエレクトロニカ・フェスティバル)」で実際にプロトタイピングしたものを、単なるプロダクトとしてではなく、「未来を問う手段」としてアーティストのみなさんはもちろん、現地の地域住民の方や大学教授などにも体験してもらい、賛否両論のフィードバックをもらいました。

future-teams 23117cbettinagangl 「Ars Electronica Festival」出展の様子。 Photo: Bettina Gangl

フィードバックから得られたもの

出村:フィードバックの声の中で、賛否の「否」で印象に残っていることはありますか?

下川:いくつかあるんですが…はたらく未来を体験してもらうにあたって、ちょっとユートピアに描きすぎたと思っています。もっとリアルに考えた未来を表現できていたら、ちょっとディストピアっぽい部分ができていたり、ダーティな部分も社会課題として見えてきていたかもしれないと思い、そういった側面も見せてほしいという声があったのは反省でもありますし、印象的なフィードバックの声でした。

出村:メーカーや会社さんと共同で未来づくりする時に、知財や技術があって、今の時代にどれが適しているんだろう?自分たちの会社の収益にできるとしたら、どこが収益源なんだろう?ということを掘り下げて、様々なハードルを超え、スタンプラリーを終えたものが商品として提供されていく、というのが一般的な流れだと思います。

そんな中、自社や他社を問わず、複数の技術があるため、自前主義を脱却し、未来のストーリーに落とし込んでいくこと、そしてそのどの章がフックするのかを外からの評価に基づき判断し、盛り上がったところで実証段階へと進むというのが、ある種のプラットフォームになっていることが面白いと思います。

image8 出典:Konel

出村:リコーさんとKonel/知財図鑑では2022年に未来事業を可視化する「共創プロジェクト」を展開しました。リコーの保有する知財から新たな活用シーンをワークショップで妄想し、未来を可視化することで新たなコラボレーションのきっかけを生み出すためのアイデアをビジュアライゼーションしました。

色々な技術がある中で、バイアスを取り除いたらできることはたくさんあると思います。
もし「うちの技術が使えそうだな!」と思う方は、ぜひ声をかけていただきたいです!こういうバックキャスト的なアプローチが未来事業には非常に有効だと思います。

▼2022年にリコーとKonelが実施した「共創プロジェクト」の事例

technopizza02 talk 引用元: https://chizaizukan.com/pickup/special/4vdwQhwCcAwV9brpQW3TrX

image13 リコー×Konelの「共創プロジェクト」①: 誰でも簡単に予約できるスマートモビリティサービス「EasyMobility」。 リコーの知財「カンタンサービス」の技術を用いて、全国のスポットに設置したQRコードから誰もが簡単にサービス利用を行えるアイデア。

image11 リコー×Konelの「共創プロジェクト」②: モノと体験を同時に受け取れるふるさと納税「どこでもりんご狩」。 リコーの知財・360度の高画質リアルタイム配信技術「4K Live Streaming」を用いて、りんご狩りの遠隔体験など、新しい体験型のふるさと納税に活用するアイデア。

image17 リコー×Konelの「共創プロジェクト」③: 3Dのバーチャルギフトを贈り合える未来のECサイト「V-Gift」。 リコーの知財・全方位映像を映し出す投影装置「WARPE(ワープイー)」を用いた、3D映像データの売買と譲渡が可能となるバーチャルギフトECサイトのアイデア。

How─ビジョンからリアルシーンの考察

出村:最後に、僕が一番興味あるところなんですけど...
どうやったら上手くいくのか?(=How)といった点について伺いたいです。

下川:フィードバックから学んだ部分があるのですが。実際に未来の価値を体験してもらう時に、モノの完成度が高いとモノ自体や表面的な部分にフォーカスが当たってしまって、プロトタイプがプロダクトとして見えてしまうことがあって、「体験」や「問い」を十分に見せられなかったことが気になってしまいました。

出村:描いていきたいのは「シーン」で、状況を見てどう思うか?なんですよね。

下川:これを使ってその人はどう変わったか?みたいなことを気にしていて、参考にしています。
モノ単体では売れない今の時代において、未来の中でどう使われるかといった先取りした研究開発をしたいときに、ビジョンを描いた中でどういうリアルシーンがあるかを緻密に描くというのは、そこから出てくるサービスや技術を予測する上で大事になると思います。

出村:出したものがそのまま開発まで流れたら、作った人は嬉しいでしょうけれど、フィードバックの価値って必ずしもそうじゃないと思うんですよね。次のトークセッションの機会があったら是非深掘りしてその話もしたいです。

稲田:僕は「作る」という行為や感情に価値があると思っています。何が成功かを定義するのは難しいけれど、事業や会社としてお金や時間を投資し、それに見合うリターンが返ってくることを成功と考えるなら、僕たちが歩んでいる道はまだ成功とは言えないかもしれません。しかし、その過程に携わる人たちがどんな感情を持っているかに注目すると、たとえどんなに忙しくても、眠れなくても、思いが形にならなくても、彼らが挑戦しているその時間はとても楽しそうに見えます。そういう意味で、このアプローチ(=会社の方向性となる目標に向かって自ら解答を出そうとする生き方)には大きな成功があると僕は思っています。

出村:稲田さん、下川さん、とてもいい話を聞かせていただき、ありがとうございました!

186 7HN6810 hn s トークセッションの様子

レポート前編はこちら:【TECHNO PIZZA x 3L night】体験レポート

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「3L Night 始動します。」(RICOH 3L 公式note

「第1夜 TECHNO PIZZA×3L Night」(RICOH 3L 公式note)


■イベント:TECHNO PIZZA x 3L night
開催日時:2024年1月26日(金)
開催場所:「RICOH 3L」(東京都大田区北馬込1-26-19)
主催:Konel、リコー

展示内容:Log FlowerFUCHAT、IDEA FLOW、Future TeamsShare of Ambientほか

関連記事:第1回目「TECHNO PIZZA vol.1」のイベントレポート記事はこちら
【イベントレポート】TECHNO PIZZA #1 @FabCafe Kyoto

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Text:須賀優海、加藤なつみ、石川 樹/Edit:福島 由香

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