No.151

2020.05.15

社会性アメーバが避難経路を導く

粘菌アルゴリズム

粘菌アルゴリズム

概要

粘菌アルゴリズムは変形菌(モジホコリカビ、社会性アメーバ)が輸送管ネットワークを作る過程に着想を得た避難経路探索アルゴリズム。防災のための避難経路を決める際、従来の最短経路を求めるアルゴリズムでは単一の始点と終点によるものしか提示できなかったが、粘菌アルゴリズムを使えば、定量的根拠に基づいた複数の避難経路を得ることと、その評価ができるため安心・安全な防災対策案を立てられる。将来的には、浸水や周辺火災などの災害危険度を考慮した避難経路を導き出す手法の改良や、災害時に使用可能なアプリの開発などが期待される。

参考:イギリスのヘザー・バーネット氏(粘菌アーティスト・研究者)のサイトより「知的粘菌モジホコリカビによる研究実験」

なにがすごいのか?

  • 短時間で効果的に避難経路を導出

  • 複数の避難終了地点への複数経路を定量評価

  • 追加計算なしに避難成功率の高い避難経路を導く

なぜ生まれたのか?

東京都は「東京の防災プラン」において、地震に対する「安全で迅速な避難」及び風水害に対する「円滑な避難」の実現を目指している。これらの実現のためには、最適な避難経路を定量的根拠に基づいて決定する必要があるが、従来の経路探索アルゴリズムでは、単一のスタート地点とゴール地点を結ぶ最短経路を求めることはできても、複数の答えを柔軟に導き出し、定量的に優先度を比較検討することは苦手であった。
また、地図アプリや地元市民の経験則によって経路を決める手法は安全性や定量性に欠けることに加え、一つの経路が遮断された際にスペアの経路を複数準備しておくことは困難であった。
そこでネットワーク最適化手法の知見を持つ地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターと、GIS(地理情報をコンピューター上で扱うためのシステム)の知見を持つ電気通信大学が共同で、粘菌アルゴリズムを道路ネットワークデータに適用することによって一度の計算で複数の避難経路を定量的に導出する手法を開発した。

なぜできるのか?

道路網と粘菌輸送管ネットワークのアナロジー

変形菌はお互いに輸送管ネットワークで結合し集合体を形成することで迷路を解くことができる。この集合行動を数理モデル化し、道路網データに適用することで、最適な避難経路を導き出す。(モデルにおけるネットワークのノードは交差点、リンクは道路に対応し、ネットワークのコンダクタンスを通行可能性、輸送管長を道路長、流量を優先度、原形質の流出入点をスタートとゴールとする)

優先度の計算

原形質の流出入点を結ぶ輸送管の流量を求めることで、避難経路としての優先度を比較することができる。その際、すべての道路の優先度を計算するため、道路状況が変化した場合でも再計算不要で迂回路を得ることができる。

相性のいい産業分野

流通・モビリティ

地形モデルに粘菌を配置し経路探索をさせることで、首都圏における効率的な交通網を作成

IT・通信

故障や第三者からの攻撃に対して頑健な自立分散型ネットワークシステムの設計

教育・人材

社会集団・組織の秩序形成の在り方を動物行動学的観点から考察

この知財の情報・出典